UI デザイナーに必要な「基準を持つ」

UI デザイナーとして私が大切にしているスキル「基準を持つ」ことについて。(UI Design Advent Calendar 2016 に掲載していた記事をリライトしました)

2021/07/10 09:00

UI デザインと他のデザインとの違い

UI デザインは、UI コンポーネント(ボタンやラベルなど)の適切な採用とデザイン、ユーザブル(使えること・役立つこと)が前提にあります。アプリでは OS のガイドラインがあったり、もしくは自らデザインの原則を設けるなど、UI を設計する「意図が明文化できているもの」が持続可能な UI であり、良いとされています。

そして、UI からは設計側のあしらいや存在は消えているべきで、ユーザビリティ以前にユーザーが自然に扱えることが最適な UI デザインであると私は考えています。UI デザインは主役ではない、ここが他のデザインと大きく違う点です。

使いにくい UI が生まれるのは

ビジネス上、機能を増やさねばならず追加することになった多くのメニュー、後の仕様変更に伴い、分かりにくくなったことで説明を表記せざるを得ないテキストなどは、まさに不自然な UI です。これらは当初の設計にたいし、変更に対応できなくなった継ぎ接ぎの結果でしょう。また、他の類似サービスから UI パターンを参考にし自社のものに当てはめたりすると、変更に対応できないものに陥りがちです。他をあまり深く意識せず、自社の世界観を作り守り貫くのが UI デザイナーの役割でもあります。

持続可能な UI であるために

ガイドラインやデザイン原則を考えることは持続可能な UI にするために有効ですが、明文化のために言葉にする・コミュニケーションを取るといったことが求められます。UI デザイナーの仕事の時間は、作ることやユーザビリティテストよりも、明文化に多くを費やすことだと言っても過言ではありません。

コミュニティやイベントで「そのためにはどう研鑽を深めればいいのか、語彙力そのものに課題を感じている」という意見が多くありました。それに必要なのは何が良くて、何が悪いかの「基準を持つ」ことが第一歩なのではないかと思います。

「基準を持つ」とは

アプリやサービスは、業務系や一過性のものを除き、日常、暮らしの中に融け込み、ずっと使ってもらえる、愛されるものになってほしいものです。日常であるべきことは飽きの来ないことであり、かつ他のものよりも洗練されていることです。UI にあしらいや設計者の存在が消えていなければならない理由はここにあります。

そうしたものをデザインするのに必要なことは、私は過去の講演で「感性を磨く」と表現しましたが、曖昧な表現だったと反省しています。どう感じるのか、の思考に必要だったのは、これまでの自分の記憶と新しいことの違いに気付ける、これが自分の「基準を持つ」ことではないかと思います。アプリやサービスだけでなく、日常にあるものが自然に使える、使っていられるのはなぜなのか?をいつも意識するだけで、その積み重ねが自分の基準になって洗練されていきます。基準を持つことができれば、そこで感じることを言葉で説明することもできます。

多くのユーザーは UI を操作するとき、これまでの記憶や経験から使えるかどうかを瞬時に判断します。ユーザーにも基準を持っているということですが、UI デザイナーの仕事は、それを先周りしユーザーを自然にゴールへ運ぶことです。さらに基準を超えた素晴らしいものに出会えば、感動の体験に変わります。そのためには常に正しい基準を持ちながら、設計を言葉にしていくことがデザインの力となっていくのではないかと思います。

大切にしたい日本人の感性

日本人の感性は諸外国に比べ素晴らしいと言われるのに、自分が他のものと違っていないか・間違っていないかを気にするのもまた日本人です。海外で流行のアプリやサービスの UI を見ては、疑わずに自分たちもそうしなければならないのでは、と思ってしまいがちです。確かにデザインやインタラクションなどは他のサービスから学ぶこともたくさんあります。大切なのは他のパターンを採用するのではなく、自分が良いなと感じたことをまず言葉にすることです。それが日本人が初めから備わっている大切な感性と所作なのだと思います。心地良い、クールで格好いい、シンプルだ、という判断基準だけでは必ずしも良い設計にはつながりません。私たちの言葉で基準を持つことが UI デザインには必要です。

Kazuki Yamashita
株式会社インパス インフォメーションアーキテクト、デザイナー
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