リクリ「ユーザーのコンテクストから考えるウェブサイトの情報設計」

リクリセミナー第11回「ユーザーのコンテクストから考えるウェブサイトの情報設計」の参加レポートです。講師は藤田 淳子さん。情報アーキテクチャとコンテクストの視点からウェブサイトの設計を考えます。

2013/05/20 09:00

リクリセミナー第11回「ユーザーのコンテクストから考える ウェブサイトの情報設計」

イベント講師は大手通信会社にて情報設計を業務としてされている、藤田 淳子さん。1時間の講義と5時間弱の実践ワークショップという大変充実した内容でした。

情報設計 IA について

講義対象は web サイトの設計ということで「IA(インフォメーションアーキテクチャ)」のもと、情報設計の概念や、その手法を交えた内容がメインでした。web 系のセミナーはよく開催されますが IA に関する内容のセミナーは実に少ないです。私も同様、講師の藤田さんも「インフォメーションアーキテクト」という肩書きでいらっしゃいますが、IA を職としている方も少ないように思います。web やアプリだけでなく「伝えるメディア」には IA は必須だと考えています。

なぜ「IA」が必須なのか

この先も情報過多は避けられません。私が初めて IA に触れたのは1997年、インターネット黎明期でした。でもその頃から、IA 界隈では今の情報過多を予測しており、今後は IA の概念は必須になる論文が多くありました。情報過多のままでは、情報の誤認や迷いが生じ、IT にも不慣れのままになってしまいがち。IAによって「探しやすく」「接しやすく」し、情報が示す目的にユーザーを導くことが必要です。ただし、これはあくまでも情報を「構造化」しただけに留まります。

モノからコトへ

家電メーカーに勤めていた私は実感していますが、昔は出せば売れる「モノ」の時代でした。ニーズに合ったモノがそもそも無かったからです。でも今はモノで溢れ返っています。そうなれば人はモノでは満足できなくなり、興味や関心は「モノ」から得られる体験「コト」に向くようになります。この体験が充実しているかどうかで、人はそのモノを取り巻く時間に満足するかしないかが決まる、今はそんな時代になりました。UX(ユーザーエクスペリエンス)と言われるようになったのもこういう背景があるのでしょう。

Web サイトは通過点

デバイスの多様化により、人が情報を得られる手段が増え続けています。PC だけだったのが、携帯電話、スマートフォン、タブレット、Google GLASS のようなデバイスまでもが登場する。そうなれば web サイトはこれらの通過点にすぎず、デバイスに合わせて情報を構造化するだけでは人を容易に「体験」へ導けなくなってしまいます。では何を考えて設計していかなければならないのか?ということです。

コンテクストとは

日本語では文脈と訳されますが、この言葉と意味はとても難しいです。講義の中では「ユーザーの属性・状態・状況で、どのようにしてユーザーが情報に接するか」ということでした。今回の講義の最重要テーマ「コンテクスト」です。私がコンテクストを説明するときはこういう例え話をしています。

人が何か飲みたいと思ってドリンクを買う時、真夏にスポーツで楽しんだ後であれば乾いた喉を潤し水分を補給する、真冬であれば体を温めるためにホットドリンクを飲む。同じ「飲む」という体験であっても、その場に置かれた人の状況、時期や時間が違えば何を飲むか、そして飲んだときの体験や反応も変わるということです。

これはごく当然のことなのですが、ドリンクを買う行為を web サイトを閲覧すると置き換えるとどうでしょうか。ユーザーがアクセスする時間や時期に変わらず、web サイトは変わらずずっとそこにあります。特定の情報を掲載している web サイトであれば、この情報を欲するユーザーのコンテクストまでを考えて、コンテンツを練り、情報を設計する必要があります。

コンテクストを考える上で重要な「時間軸・そのときの感情」

講義では、ホスティングサービスの web サイトコンテンツの設計が例にありました。コンテクストを考える時、中心になるのは「時間軸」です。まずホスティングサービスについて関心のあるユーザーの時間軸を定義します。そしてホスティングを必要とする「課題」が起点に始まり、サービスの他社比較をし契約、サービス開始後の運用、というのが時間軸です。

次に考えるのはそのときの感情はどうか?ユーザーはどういう状態にいるのか?という点です。色々な他社のサービスとを並べて比較をしたいのに、ホスティングサービスの概要が何ページにも渡っていれば、そのサービスを諦めてしまうかもしれません。ユーザーがゴールまで至らないということは、この時間軸と感情に沿っていないコンテンツがある、もしくはコンテンツが無く、そこで落ちている可能性が高いといえます。

実際のワークフロー

最後にこれらを踏まえた web サイトのコンテンツを考えるワークフローです。

  1. 課題は何なのか
  2. ターゲットは誰なのか
  3. それに必要なコンテンツは何か
  4. それらをカテゴライズする

ここまでが構造化です。このひとつひとつに何のために?誰がどういう感情か?そして次に何をするのか?を考えることが重要です。そして、いわゆる画面の設計は次から登場します。

  1. ワイヤー・画面設計
  2. 評価
  3. ビジュアルデザイン

講義中でも言われてましたが、企画中に「ちょっとワイヤー起こしてくれない?」といきなりオーダーされても「できません」というのが自然な答えになるでしょう。

まとめ

この後はグループごとにワークショップとなりました。ごく一部のステップでしたが、web サイトの企画・初回ディレクション、こういうフェーズについては「IA」はやはり基礎工事であり、画面の前にしっかり設計すべきものがまだまだ多くあることを再認識できます。

社内サイトの構築が例にありましたが、会社では色々な部門があり、それぞれの立場によって意見もあると思います。クライアントワークでも色々な要望が上がると思います。でもそれだけを web ページに詰め込んだり、考えずにワイヤーフレームを起こすのは、もうこれからの web サイト制作としてはほぼ意味を持たない、ユーザーに価値をもたらさないものを作ることにもなりかねません。

1997年、学生時代に「IA」をかじったものの、しばらく見なく聞かなくなった分野だなと感じていましたが、UX という概念をはじめ、IA が進化した姿になり、本当に必要な時代がようやくやってきたのだと思えるようになった、そんなセミナーでした。

Kazuki Yamashita
株式会社インパス インフォメーションアーキテクト、デザイナー
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