ライティングは UI デザインである

UI デザインが注目される昨今ですが、そこで使用されるラベルやテキスト表現も UI コンポーネントのひとつです。UI デザインに必要な、ライティング・ワーディングのスキルの重要性について。

2016/06/23 09:00

低下するライティングスキル

私たち日本人は、文脈や背景の定義を必要とせず「相手を察すること」で意思疎通を図る「ハイコンテキスト」なコミュニケーション文化だと言われています。LINE や SNS でも短いテキストで会話が成立することは日常です。手書きからメールへ、そのメールは今やチャットに代わり、テキストの発信はどんどん増えています。一方で、語彙力やライティングスキルが低下していると感じることはないでしょうか。コピー & ペーストの氾濫、分かりにくい文章、何かを PR する長文が書けない──。こうした問題はデザインやエンジニアリングの職域に関係なく、成果の質まで下げているかもしれません。

ライティングそのものが UI である

Basecamp や Campfire を展開している 37signals による『Getting Real』の中では ”Copywriting is Interface Design” が提唱されています。優れたインタフェースは、ライティングされたものすべてであり、ピクセルやアイコンにこだわるように文字にこだわる。つまりインタフェースデザインはコピーライティングであると書かれています。スクリーン UI のボタンのラベル、テーブルの項目名を考えるときは、自分の頭の中にある言葉だけで考えるのではなく、使うユーザーと場面を想像してみることです。その一画面では、例えば商品を選んでいるユーザー、今や買おうかと思い悩んでいるユーザー、もっと商品のことを詳しく知りたい思うユーザーなどがいるはずです。アプリやサービスの世界に入ってくれたユーザーを歓迎し、サービス提供側は、そのユーザーのためにライティングされた UI で導く必要があります。

ライティングを構成するワーディング

ライティングという書くスキルからもう少し UI にフォーカスすると、「ワーディング」というスキルがあります。ワーディングとは、言葉遣いや言い回しを決めることであり、ワーディングによって「世界観が作られる」と私は考えています。ワーディングの正攻法は多くあります。UI とライティングの関係性に初めて気付いたのであれば、ライティングに関する多くの良書も参考になります。以下では、最近の UI でありがちな、ワーディングの禁じ手を取り上げたいと思います。

ワーディングにおけるタブー

他社のワーディングを参考に(模倣)する

「いま」起きていることを見つけよう。

これは Twitter 日本版のヒーローヘッダーです。web やアプリではこうした「〜しよう」という呼びかけ型のコピーが多く見られるようになりました。ニュースを読もう、書いてみよう、検索してみよう。Twitter のように広く知れたサービスでなければ、こうした呼びかけはとても奇妙です。他社には他社の世界観があります。ワーディングでは、流行や模倣でオリジナルの世界観を築くことはできません。どこどこ社のサービスはこういうワーディングだから同じようなテイストにする、という発想では決して良い言葉は生まれません。

括弧や装飾記号を多用する

マルチバイト文字を扱う私たち特有の問題かもしれません。装飾記号(■□◆┏など)で目立たせようとすることです。また括弧記号も日本語変換辞書には多く含まれています。特にメールでよく見かける墨括弧【 】で囲まれた文字。見やすいと思われたのか、文字や項目を酷く装飾し文字数を無駄にしています。記号には正しい用法があり、飾りのためにあるものではありません。時代遅れのメール文化から足を洗い、記号ではなく言葉選びに集中すべきでしょう。

同じ意味の語彙を多く使う

同じアプリで保存、完了、というような同じ意味のラベルやメッセージは混ざっていませんか。また日本語のラベルには名詞だけでなく、動詞のもの(例えば「保存する」など)も増えています。これはフラットデザインの小さな影響で、テキストリンクだけではボタンとして認識されないことで、ユーザーの操作イメージに近い言葉に進化しました。こうした過程で品詞の統一性が崩れていくことがあります。世界観を維持するのは、たくさんの語彙ではなく、統一されたワーディングです。多くの人が関わるチームでは、独自のワーディングに関するスタイルガイドなどを共有するとよいかもしれません。

これからのワーディング

コンピューターが AI によって進化すれば、コミュニケーションは音声よりもテキストメッセージングが先駆けになるかもしれません。まるで誰かと話しているかのように、サービスを進行する UI はスクリーン上のボタンや画像だけではなく、対話型のメッセージ UI も含まれるでしょう。そうした流れで、サービス提供側がまず考えなければならないのは「自分たちのワーディング」です。担当者の頭の中にあるワーディングだけでなく、自社やそのブランドの統一されたライティングを築き上げることが求められます。私たち日本人は、短歌や俳句、落語や漫才といった「言葉」を大切にしている文化の国でもあります。グラフィックやスクリーンだけではなく、人間味が感じられるワーディングをこれからも一緒に考えていきたいと思います。

Kazuki Yamashita
株式会社インパス インフォメーションアーキテクト、デザイナー
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